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猫の前頭洞発生B細胞性リンパ腫に対し前頭洞穿頭生検後、COPプロトコールを開始した1例

高齢の猫で視覚障害、異常行動、食欲低下がみられる場合、鼻腔や前頭洞由来の腫瘍が頭蓋内へ進展していることがあります。本症例ではMRI・CT検査で前頭洞から鼻腔にかけての病変と脳浸潤が疑われ、前頭洞穿頭生検を実施しました。病理組織検査では慢性炎症でしたが、細胞診とクローナリティー検査でB細胞性リンパ腫が支持され、最終的に前頭洞発生リンパ腫として化学療法を開始しています。犬や猫で神経症状や食欲低下が続く場合は、早めに動物病院で画像検査を含む評価を検討することが大切です。

症例の概要

• 動物種:猫
• 年齢:12歳齢
• 性別:オス(去勢済)
• 体重:7.7kg
• 主訴:視覚障害、異常行動、食欲低下
• 実施検査:神経学的検査、MRI検査、CT検査、前頭洞穿頭生検、細胞診、病理組織検査、リンパ腫クローナリティー検査、血液スクリーニング検査
• 診断:前頭洞発生B細胞性リンパ腫(脳浸潤)
• 術式:前頭洞穿頭・生検、食道チューブ設置
• 担当獣医師:長谷川 大輔(脳神経部門)、松田 裕樹(腫瘍部門)

来院時の様子と検査・診断の流れ

来院時には傾眠、両側視覚障害、固定気味の瞳孔、姿勢反応低下がみられ、前脳から脳幹にかけてのびまん性病変が疑われました。MRIでは両側前頭洞、とくに左側を主体とする病変が鼻甲介や篩板の破壊を伴って頭蓋内へ浸潤し、嗅球周囲の造影増強、白質のびまん性変化、軽度のテント切痕ヘルニアが確認されました。
前頭洞穿頭生検で採材した組織の病理組織検査は慢性炎症でしたが、細胞診では中細胞性から大細胞性リンパ腫が疑われ、クローナリティー検査でB細胞性クローンが確認されました。病理組織は病巣本体を採取できていなかった可能性が高く、総合的にB細胞性リンパ腫と診断しています。

▲細胞診では多数のリンパ球が得られ、中型や大型のリンパ球が優位であったことから、中細胞性~大細胞性のリンパ腫が疑われる

手術内容の説明

前頭洞穿頭生検は、画像上で腫瘍が疑われる部位から組織を採取し、診断確定に近づけることを目的とした処置です。本症例では左傍正中前頭洞に穿頭を行い、前頭洞内側面の軟部組織を採取しました。加えて、食欲低下が持続したため食道チューブを設置し、栄養管理を補助しています。
期待できることは、病変の性質を把握したうえで適切な治療選択につなげることです。一方で、前頭洞・頭蓋内病変では神経症状の進行や脳圧亢進、採材部位による偽陰性の可能性が残るため、画像所見と病理・細胞診を合わせた判断が重要です。

麻酔管理と術中のポイント

頭蓋内浸潤が疑われる症例では、麻酔中の循環維持と脳圧管理が重要です。本症例でもMRI・CT検査および生検は全身麻酔下で行い、周術期にはグリセオール投与などで脳圧上昇に配慮しました。食道チューブ設置時も全身状態を確認しながら短時間麻酔で対応しています。
安全に最大限配慮しながら麻酔管理を行いましたが、どのような麻酔にも一定のリスクは伴います。

術後の経過と今後の注意点

L-アスパラギナーゼ投与後、視覚や異常行動は改善し、元気活動性も上向きました。一方で自力採食は不十分であったため、食道チューブを設置し、給餌管理を開始しました。さらに食道チューブ設置の2日後からCOPプロトコールの一環としてビンクリスチンを投与しており、今後も化学療法を継続し、一定期間後にMRIで治療反応を再評価する予定です。

ご家庭で注意してほしいポイント

  • ふらつき、ぼんやりする、視覚反応の悪化があれば早めに受診する
  • 食道チューブ周囲の赤み、滲出、においの変化があれば相談する
  • 給餌量、飲水量、嘔吐の有無を記録して共有する
  • 処方薬やチューブ給餌は自己判断で中断しない
  • 化学療法後の食欲低下、下痢、嘔吐、元気消失に注意する

同じ症状の症例を診る獣医療関係者へのメッセージ

今回の症例は肉眼的に病変を確認できない状態で採材をしており、検査提出前に検査サンプルの正確性を把握していることが重要となります。局所生検の病理だけで確定できない場合があるため、画像所見、細胞診、クローナリティー検査を統合して診断する姿勢が重要で、栄養管理を含めた支持療法を早期に組み込むことで治療継続性を高めやすくなります。

FAQ(よくある質問)

Q1. 病理が炎症でもリンパ腫と診断されることはありますか?
A. あります。採材部位が病変の中心を外れると、組織で腫瘍が確認できないことがあります。

Q2. 食道チューブはいつまで必要ですか?
A. 自力採食が安定するまで使用することが一般的です。期間は治療反応と栄養状態で変わります。

Q3. 化学療法後に再検査は必要ですか?
A. 必要です。定期的に病変の状態を確認します。通院回数や必要なお薬は、状態や術後経過によって変わります。

※本記事の内容は、当院で実際に診療した1例をもとにした一般的な説明です。診断や治療の方針は、犬や猫それぞれの状態によって異なります。