高齢の猫で下顎周囲の腫瘤がみられる場合、唾液腺由来の腫瘍を含めた精査が重要です。本症例では右下顎領域の腫瘤に対して画像検査と細胞診を行い、唾液腺腫瘍が疑われました。CT検査では唾液腺腺癌が第一に疑われ、右内側咽頭後リンパ節との境界不明瞭な所見も認めたため、右唾液腺切除と内側咽頭後リンパ節切除を実施しました。術後は上部気道閉塞に注意しながら呼吸状態を重点的に管理し、良好な経過で退院しています。
症例の概要
• 動物種:猫(ブリティッシュ・ショートヘアー)
• 年齢:11歳齢
• 性別:メス(避妊済)
• 体重:2.64kg
• 主訴:右下顎腫瘤の精査、治療相談
• 検査:血液スクリーニング検査、胸部レントゲン検査、腹部超音波検査、頚部超音波検査、細胞診、CT検査
• 診断:右唾液腺腫瘍(唾液腺腺癌疑い)
• 術式:右唾液腺切除、右内側咽頭後リンパ節切除
• 担当獣医師:金井 詠一(軟部外科部門・腫瘍部門)、松田 裕樹(腫瘍部門)
来院時の様子と検査・診断の流れ
右下顎の腫瘤は数ヶ月前から認識され、徐々に増大していました。来院時には元気と食欲は保たれ、嚥下障害も認めませんでしたが、触診と頚部超音波検査で右下顎領域に腫瘤性病変を確認しました。細胞診では異型性の低い上皮細胞集塊が多数みられ、唾液腺腫瘍が疑われました。
CT検査では右側下顎外側の唾液腺領域に造影増強を伴う腫瘍性病変を認め、右内側咽頭後リンパ節との境界がやや不明瞭でした。胸部には特記すべき異常はなく、外科的処置が適応されると判断しました。鑑別としては唾液腺腺癌のほか、他の上皮系腫瘍や炎症性病変が挙げられます。
手術内容の説明
本症例では、右唾液腺腫瘍に対して唾液腺切除を行い、あわせて同側の内側咽頭後リンパ節も切除しました。手術では腫瘤周囲の軟部組織を丁寧に剥離し、外頚静脈を結紮離断したうえで、反回神経を温存しながら腫瘤を摘出しています。
期待できることは、局所病変の切除による腫瘍量の低減と病理診断の確定です。一方で、頚部手術では術後腫脹による上部気道閉塞、漿液腫や唾液瘤、局所再発などのリスクが残るため、慎重な術後管理が必要です。
麻酔管理と術中のポイント
頚部腫瘍の手術では、術後の腫脹による上部気道閉塞に特に注意が必要です。本症例でも麻酔前に血液検査、心エコー、血圧測定などを行い、全身状態を確認したうえで手術を実施しました。術中は動脈カテーテルや尿道カテーテルを併用し、循環と尿量を確認しながら管理しています。
安全に最大限配慮しながら麻酔管理を行いましたが、どのような麻酔にも一定のリスクは伴います。
術後の経過と今後の注意点
術後はICUで酸素化と呼吸状態を観察し、ドレーン管理を行いました。経過中に明らかな上部気道閉塞は認めず、徐々にルームエアーへ移行し、ドレーンも抜去できたことから、手術3日後に退院となりました。退院時には術創は概ね良好でしたが、右耳下腺領域には術後炎症による硬結感が残っており、漿液腫や唾液瘤形成の可能性に注意して経過観察としました。

▲術後の様子
ご家庭で注意してほしいポイント
- 呼吸が苦しそう、開口呼吸、嚥下しづらそうな様子があれば早めに受診する
- 頚部の腫れ、熱感、滲出、急な硬結の増大があれば相談する
- 術創を掻かないようにし、カラー管理を指示どおり継続する
- 食欲低下や元気消失が続く場合は早めに主治医へ連絡する
- 抜糸や病理結果説明を含む再診予定を守る

▲術後11日目
同じ症状の症例を診る獣医療関係者へのメッセージ
唾液腺腫瘍では、画像上リンパ節転移や周囲組織への浸潤が疑われる場合、術前CTで解剖学的位置関係を把握しておく意義が大きいと考えられます。とくに猫の頚部手術では、術後の上部気道管理まで含めて周術期計画を立てることが重要です。
FAQ(よくある質問)
Q1. 唾液腺腫瘍は良性のこともありますか?
A. ありますが、画像や細胞診だけでは確定できないことがあります。最終的な評価には病理組織検査が重要です。
Q2. 術後に首が少し腫れることはありますか?
A. 術後炎症や液体貯留で軽度の腫れがみられることがあります。急速に増悪する場合は再診が必要です。
Q3. 転移の確認はどう進めますか?
A. 一般的には胸部X線検査やCT検査、リンパ節評価、病理結果を踏まえて判断します。
※本記事の内容は、当院で実際に診療した1例をもとにした一般的な説明です。診断や治療の方針は、犬や猫それぞれの状態によって異なります。