小型犬で歩様のふらつきやつまずきが続く場合、環椎(C1)と軸椎(C2)の不安定性(環軸亜脱臼)が背景にあることがあります。本患者では一次病院でCT・MRI検査が行われ、歯突起不全を伴う環軸亜脱臼が疑われました。当院で術前評価を行ったうえで環椎軸椎固定術を実施し、術後は頚部外固定と再診で経過を確認しました。気になる神経症状があるときは、早めに動物病院での評価を検討してください(同様の頚部疾患は猫でも起こり得ます)。
症例の概要
• 動物種:犬(ポメラニアン)
• 年齢:1歳4ヶ月齢
• 性別:オス
• 体重:3.5kg
• 主訴:歩様のふらつき(つまずき)
• 実施検査:CT・MRI(一次病院にて)、血液スクリーニング検査、血液凝固検査、胸部レントゲン検査、心エコー検査
• 診断名:環軸亜脱臼(歯突起不全を伴う)
• 実施術式:環椎軸椎固定術
• 担当獣医師名:田村 勝利(脳神経部門 脊椎・脊髄外科ユニット)
来院時の様子と検査・診断の流れ
本症例は、一次病院での画像検査後、手術適応の判断と治療方針の検討を目的に紹介受診されました。一般的に環軸亜脱臼では、頚部の不安定性により脊髄が圧迫され、歩様異常から四肢麻痺まで幅広い神経症状を呈します。
本患者では画像所見から歯突起不全による不安定性が示唆され、一般的に保存的な頚部固定のみでは安定化が難しいことがある点も踏まえて治療方針を検討しました。手術に先立ち、血液検査・凝固系評価に加えて胸部レントゲン検査や心エコー検査を行い、麻酔リスク評価を行いました。鑑別としては頚椎椎間板ヘルニア、外傷性頚椎損傷、炎症性疾患などが挙げられます。
手術内容の説明
環椎軸椎固定術は、C1-C2間の不安定性を整復・固定して脊髄への負荷を軽減し、症状の改善と進行予防を目指す手術です。本患者ではKワイヤーと1.4mmのクロスピンを用いて固定を行い、術後は頚部の過度な動きを避けるため外固定も併用しました。
期待できることは、頚髄圧迫の軽減に伴う歩様の改善や疼痛の軽減です。一方で、インプラント関連トラブル、感染、再不安定化、術後早期の呼吸循環イベントなどのリスクは残るため、術後管理と再診が重要です。
麻酔管理と術中のポイント
頚椎の不安定症例では、導入・挿管・体位変換の各段階で頚部に過度な伸展や捻転が加わらないよう配慮します。本患者では動脈カテーテル留置による血圧評価や、体温低下を防ぐ管理を行いました。
安全に最大限配慮しながら麻酔管理を行いましたが、どのような麻酔にも一定のリスクは伴います。
術後の経過と今後の注意点
術後は入院下で疼痛管理と全身状態のモニタリングを行い、退院後も頚部外固定(オルテックス)を継続しました。再診では歩行状態の改善が確認され、抜糸と外固定の調整を行いながら、2ヶ月後の再診時点でも日常歩行は安定していました。
ご家庭で注意してほしいポイント
- 抱き上げる際は首だけを支えず、胸と骨盤を両手で支えて頚部を捻らない
- 首輪は避け、ハーネスでの管理を基本とする
- 走る・跳ぶ・階段など頚部に衝撃が加わる動きは控える
- かたいフードや噛むおやつ、シャンプーは無理のない範囲で主治医に確認して調整する
- ふらつきの悪化、強い疼痛、呼吸の異常があれば早めに受診する
- 再診(外固定調整や画像評価など)の予定を守る
同じ症状の症例を診る獣医療関係者へのメッセージ
若齢小型犬の歩様異常では、環軸の不安定性を鑑別に入れ、早期にCT・MRIなどの画像評価へつなげることが重要です。歯突起不全例は保存療法の効果が限定的となることがあり、神経症状の進行度と画像所見を踏まえて外科的安定化の適応と紹介時期を検討すると、説明と計画が立てやすくなります。
FAQ(よくある質問)
Q1. 首の固定だけで良くなりますか?
A. 一般的に、背景(歯突起不全など)や不安定性の程度によって外固定の効果は変わります。神経症状や画像所見に応じて手術が検討されます。
Q2. 術後はどのくらい安静が必要ですか?
A. 固定の安定性と神経症状により異なりますが、数週間〜数か月単位で段階的に活動量を調整します。再診での評価に基づき指示します。
Q3. 自宅で注意すべき悪化のサインは?
A. ふらつきの増悪、四肢の脱力、強い頚部痛、呼吸状態の変化は受診の目安です。急な変化がある場合は早めに相談してください。
※本記事の内容は、当院で実際に診療した1例をもとにした一般的な説明です。診断や治療の方針は、犬や猫それぞれの状態によって異なります。