小型犬に多い環軸亜脱臼は、頚部痛や四肢のふらつき、重症例では起立不能を呈することがあります。本症例では紹介元でCT・MRIにより環軸亜脱臼と診断され、当院で術前評価後に腹側アプローチで環軸固定術を実施しました。頚部の不安定性は犬だけでなく猫でも問題となり得るため、急な歩行障害や頚部痛がある場合は動物病院で早めに評価を受けることが重要です。
症例の概要
・動物種:犬(チワワ)
・年齢:8歳齢
・性別:オス(去勢済)
・体重:3.12kg
・主訴:四肢麻痺、起立歩行不能、頚部痛
・実施検査:CT・MRI(紹介元にて)、血液スクリーニング検査、凝固検査
・診断:環軸亜脱臼
・術式:環軸固定術(腹側アプローチ、1.4mmピン2本で固定)
・担当獣医師名:田村 勝利(脳神経部門 脊椎脊髄外科ユニット)
来院時の様子と検査・診断の流れ
紹介元での画像検査(CT・MRI)により環軸亜脱臼と診断され、手術目的で紹介来院しました。来院時は頚部痛と四肢麻痺がみられ、頚部は外固定が行われていました。
手術に先立ち、血液スクリーニング検査と凝固検査で全身状態を評価し、周術期に出血傾向などの問題がないかを確認しました。頚部の急性麻痺では、頚椎椎間板ヘルニア、外傷性の頚椎損傷、炎症性疾患なども鑑別に挙がるため、神経学的所見と画像所見を合わせて治療方針を決定します。
▲pre
手術内容の説明
環軸亜脱臼では、環椎(C1)と軸椎(C2)の不安定性により脊髄が圧迫され、疼痛や麻痺が進行することがあります。環軸固定術は、不安定な関節を整復・固定して脊髄への負荷を減らし、機能回復を目指す手術です。
本症例では腹側からアプローチし、1.4mmピン2本を用いて環椎と軸椎の固定を行いました。術中所見として軸椎の変位・変形が強く、整復位の維持と固定の安定性確保を重視しました。
期待できることは、頚部痛の軽減と神経症状の改善です。一方で、インプラント関連トラブルや感染、再不安定化などのリスクは残るため、術後の安静と再診が重要です。
麻酔管理と術中のポイント
頚椎の不安定性が疑われる症例では、気道確保や体位変換の際に頚部へ過度な力がかからないよう配慮し、循環(血圧)・換気(ETCO2=呼気終末二酸化炭素分圧)・体温を軸にモニタリングします。本症例でも全身麻酔下で手術を行い、必要に応じた鎮痛の併用と術後ICU管理につなげました。
安全に最大限配慮しながら麻酔管理を行いましたが、どのような麻酔にも一定のリスクは伴います。
術後の経過と今後の注意点
術後はICU下で温度管理を行い、尿道カテーテル留置と尿量モニタリングを含めて全身状態を観察しました。頚椎の手術後は神経学的回復に個体差があるため、短期的な状態変化だけでなく、中長期の再評価を踏まえてリハビリ計画を調整します。
ご家庭で注意してほしいポイント
- 再診(神経学的評価や画像再検など)の予定を守る
- 退院後しばらくは安静を最優先とし、走る・跳ぶ・階段は避ける
- 首輪ではなくハーネスを使用し、頚部に強い牽引がかからないようにする
- 抱き上げる際は頭だけを持ち上げず、胸と骨盤を支えて頚部を捻らない
- 食べづらさ、むせ、呼吸促迫などがあれば早めに受診する
- 創部を掻かないようにし、腫れ・滲出・出血があれば相談する
▲after
▲手術約1ヶ月後の様子
同じ症状の症例を診る獣医療関係者へのメッセージ
四肢麻痺や強い頚部痛を伴う小型犬では、環軸亜脱臼を鑑別に入れ、外固定下で早期に画像評価へつなげることが重要です。術前検査で全身麻酔リスクを整理したうえで、整復位の安定性が得にくい例は早めの専門施設紹介も検討すると、予後説明と治療計画が立てやすくなります。
FAQ(よくある質問)
Q1. 環軸亜脱臼は内科治療だけで良くなりますか?
A. 軽症例では外固定と安静で管理する場合もありますが、麻痺や再発を繰り返す例では手術が検討されます。適応は神経学的重症度と画像所見で判断します。
Q2. 退院後はどのくらい安静が必要ですか?
A. 一般的には数週間〜数か月単位で段階的に活動量を調整します。具体的な期間は固定の状態や回復度で変わります。
Q3. 首輪やリードの使い方で注意点はありますか?
A. 退院後は頚部への負荷を避けるため、ハーネスの使用が勧められることがあります。散歩の開始時期や範囲は主治医の指示に従ってください。
※通院回数や必要なお薬は、状態や術後経過によって変わります。
※本記事の内容は、当院で実際に診療した1例をもとにした一般的な説明です。診断や治療の方針は、犬や猫それぞれの状態によって異なります。