後肢のふらつきと不全麻痺を主訴に来院したボストン・テリアの犬に対し、画像検査で脊髄の圧迫病変が疑われました。精査のうえ外科的減圧を目的として椎弓切除術を実施し、摘出組織の病理検査により悪性末梢神経鞘腫瘍と診断されました。脊髄疾患では、症状の進行度と画像・病理所見を総合して治療方針を検討することが重要です。

症例の概要
・動物種:犬(ボストン・テリア)
・年齢:11歳
・性別:メス(避妊済)
・体重:8.5kg
・主訴:後肢のふらつき、軽度の後肢不全麻痺
・診断名:脊髄腫瘍(悪性末梢神経鞘腫瘍)
・実施検査:神経学的検査、血液検査、MRI検査、病理組織検査
・術式:T10–12 左側椎弓切除術
・担当獣医師名:田村 勝利(脳神経部門・脊椎脊髄外科ユニット)
来院時の様子と検査・診断の流れ
本症例は、数ヶ月前から後肢のふらつきがみられ、徐々に歩様の異常が進行したため紹介受診となりました。神経学的検査では後肢の姿勢反応低下が認められ、胸腰部脊髄病変が疑われました。MRI検査ではT8〜T10領域を中心に脊髄を圧迫する病変が確認され、硬膜外腫瘍が鑑別として挙げられました。臨床症状の進行と画像所見から、外科的減圧と病変の確定診断を目的に手術を選択しました。
手術内容の説明
椎弓切除術は、脊髄を圧迫している病変を除去または減圧し、神経機能の改善を目指す手技です。本症例ではT10〜12の左側椎弓切除を行い、脊髄への圧迫を軽減しました。症状の進行抑制やQOLの改善が期待される一方、腫瘍の性状によっては再発や進行のリスクが残る点に留意が必要です。
麻酔管理と術中のポイント
脊椎・脊髄外科では、循環・換気・体温管理に加え、脊髄灌流を意識した血圧管理が重要です。本症例でも心拍数、血圧、SpO₂、体温などを継続的にモニタリングし、侵襲を最小限に抑えるよう配慮しました。安全に最大限配慮しながら麻酔管理を行いましたが、どのような麻酔にも一定のリスクは伴います。
病理検査の結果
摘出した組織の病理組織学的検査では、非上皮性の悪性腫瘍性病変が認められ、腫瘍細胞は紡錘形で束状から胞巣状に増殖していました。核の大小不同や分裂像も確認され、臨床経過とあわせて悪性末梢神経鞘腫瘍と診断されました。
術後の経過と今後の注意点
術後は後肢の支持性に改善がみられ、手術の3日後に歩行可能な状態で退院となりました。
※ 動画掲載予定
※ 術後(2週間)の様子掲載予定
ご家庭で注意してほしいポイント
・急な運動や滑りやすい環境を避ける
・歩様の悪化や疼痛の兆候があれば早めに動物病院を受診する
・定期的な再診と画像検査で再発や進行を評価する
同じ症状の症例を診る獣医療関係者へのメッセージ
進行性の後肢麻痺を示す犬では、早期に脊髄病変を疑い、画像検査による評価が重要です。外科的介入は症状改善に寄与する一方、腫瘍性疾患では病理診断に基づく予後説明とフォロー計画が不可欠です。
FAQ(よくある質問)
Q1. 脊髄腫瘍はすべて手術適応になりますか?
A. 一般的には症状の進行度や腫瘍の位置・性状を総合して判断します。
Q2. 病理検査はなぜ重要ですか?
A. 腫瘍の種類や悪性度を把握し、予後や今後の治療方針を検討するために重要です。
Q3. 術後の通院はどのくらい必要ですか?
A. 通院回数や必要な検査、薬は状態によって変わります。
※本記事の内容は、当院で実際に診療した一例をもとにした一般的な説明です。
診断や治療の方針は、犬や猫それぞれの状態によって異なります。