強直性けいれんを契機に脳腫瘍が疑われ、MRIで右前頭側頭部の髄膜腫が示唆された犬の患者に対し、術前評価のうえ開頭手術による摘出と病理検査を行いました。術後は神経学的に大きな悪化はなく退院し、右眼の瞬目低下に対して点眼とリハビリを継続しています。神経症状はだいぶ進行してから診断されることもあり(そのために治療が遅れる)、早期に動物病院で評価につなげることが重要です。

症例の概要
- 動物種:犬(ミニチュア・ダックスフンド)
- 年齢:14歳 体重:7.4kg
- 性別:去勢済
- 主訴:強直性けいれん(全般性発作)
- 画像診断:右前頭側頭部の腫瘤性病変(髄膜腫を強く疑う)
- 確定診断:髄膜腫(病理組織診断)
- 実施検査:MRI、血液検査・凝固系、胸部X線、心電図・心エコー
- 術式:脳外科 開頭手術(腫瘍摘出)
- 麻酔時間:2025年12月6日 10:15-16:20(6時間05分)
- 併存/リスク:高齢、軽度の僧帽弁逆流
- 担当獣医師:長谷川大輔(脳神経部門)
来院時の様子と検査・診断の流れ
初発の発作は睡眠中に四肢伸展と流涎を伴い、発作後は一過性の傾眠がみられました。神経学的検査では後肢の固有位置感覚低下が軽度に認められた一方、全身状態は概ね保たれていました。鑑別として脳腫瘍、脳血管障害を念頭にMRIで局在と性状を評価しました。MRIでは右前頭側頭外側部に小型腫瘤が描出され、造影で強い増強とdural tail signを伴い、髄膜腫が強く疑われました。周囲浮腫の評価と麻酔リスクの見極めのため、血液検査(凝固系含む)や循環器評価を行い、手術に影響する大きな異常は認めませんでした。
手術内容の説明
開頭手術では、腫瘤の摘出により占拠性病変を除去し、発作や脳浮腫の原因を減らすことを目的とします。一般的には骨窓作成後、硬膜切開から腫瘍を同定し、出血管理を行いながら摘出し、必要に応じて病理検査用に提出します。本症例でも摘出組織を病理検査へ提出し、髄膜腫と診断されました。期待できることとして、脳腫瘍を原因とした死亡の回避、発作頻度の低下または消失が見込まれます。一方で、術後に神経症状(麻痺、発作の再燃、脳浮腫など)が残るリスクはゼロではありません。
麻酔管理と術中のポイント
高齢であること、軽度の心疾患所見があることから、循環・換気・体温の安定化を軸に麻酔計画を立てました。術中は心電図、血圧、SpO2、ETCO2(呼気終末二酸化炭素分圧)、体温、尿量などを継続モニタリングし、微妙な変化に適宜対応していきます。脳外科では血圧変動や高炭酸ガス血症が頭蓋内環境に影響しうるため、必要に応じて換気調整と循環作動薬でバランスを取り、覚醒は穏やかに誘導しました。安全に最大限配慮しながら麻酔管理を行いましたが、どのような麻酔にも一定のリスクは伴います。
術後の経過と今後の注意点
術後はICUで体温管理と頭部挙上を基本に経過観察し、翌日には起立・歩行・食事が可能となりました。排泄管理では尿道カテーテルの自己抜去がありましたが、状態に応じて管理方法を調整しました。神経学的には大きな悪化はなく退院できた一方、側頭へのアプローチによる右眼の眼瞼反射低下(局所的な顔面神経麻痺)により瞬目が不十分で、角膜保護のための点眼と眼瞼開閉のリハビリを継続しています。
ご家庭で注意してほしいポイント
- 発作の再発や意識状態の変化があれば早めに受診
- 目や頭を擦る場合はカラー装着などで外傷を予防
- 点眼は乾燥予防のため継続し、充血や目やにがあれば相談
- 抗てんかん発作薬は発作がなくても急な中止を避け、指示に沿って維持/漸減する
- 抜糸や再診のタイミングは主治医の指示に合わせる
- 食欲・排泄の変化が続く場合は全身状態も確認する
同じ症状の症例を診る獣医療関係者へのメッセージ
高齢小型犬で発作が出現した場合、頭蓋内占拠性病変の可能性を早期に想定し、MRIを含む画像診断へつなげることが予後とQOLに影響します。治療選択(経過観察、放射線治療、外科摘出)は年齢や併存疾患、飼い主の意向で変わるため、意思決定支援のためのリスク説明と紹介タイミングが重要です。
FAQ(よくある質問)
Q1. 髄膜腫は良性ですか?
一般的には良性の割合が高い腫瘍ですが、病理で悪性度が評価されます。画像所見だけでは確定できないため、必要に応じて病理検査が重要です。
Q2. 手術をしても発作は続きますか?
腫瘍による刺激が減ることで改善が期待できますが、術後もしばらく発作管理が必要なことがあります。抗てんかん発作薬の調整は再発状況をみて行います。
Q3. 猫でも同じような脳腫瘍はありますか?
猫でも頭蓋内腫瘍はみられ、犬と同様に髄膜腫が最も多い脳腫瘍です。種差や併存疾患で治療方針は変わるため、画像診断と全身評価が重要です。
通院回数や薬は状態で変わるため、主治医と相談してください。
※本記事の内容は、当院で実際に診療した一例をもとにした一般的な説明です。
診断や治療の方針は、犬や猫それぞれの状態によって異なります。