症例の概要
・動物種:犬(MIX)
・年齢:6歳
・性別:オス(去勢済)
・体重:17.7kg
・主訴:急性の後肢麻痺(グレード4相当)
・診断名:椎間板ヘルニア(L3右側の脊髄圧迫)
・実施検査:神経学的検査、CT検査、MRI検査
・術式:片側椎弓切除術
・担当獣医師名:田村 勝利(脳神経部門・脊椎脊髄外科ユニット)
来院時の様子と検査・診断の流れ
▲術前の様子(後肢麻痺)
突然の後肢麻痺により、夜間・救急診療の時間にかかりつけ医様からのご紹介で緊急受診された症例です。来院時、後肢の随意運動は認めず、姿勢反応の低下がみられました。痛覚評価は状況により判定が揺れることがありますが、本症例では術前に深部痛覚の保持を確認し、皮筋反応なども参考に病変部位の推定を行いました。
翌日実施した画像診断において、CT検査ではL3領域で腹側から脊髄を圧迫する所見が疑われ、MRI検査でL3右側からの脊髄圧迫を確認したことから手術実施に至りました。鑑別としては、線維軟骨塞栓症(FCE)、外傷性病変、炎症性疾患などが挙げられるため、神経学的所見と画像所見を総合して治療方針を決定します。

手術内容の説明
片側椎弓切除術は、椎弓の一部を除去して脊髄や神経根への圧迫を解除する減圧手術です。本症例では画像所見と神経学的評価を踏まえ、圧迫が疑われる部位の減圧を目的に実施しました。
期待できることは、脊髄圧迫の解除に伴う疼痛の軽減と神経機能の回復です。一方で、術後も神経症状が残存する可能性や、感染・出血、別部位での椎間板疾患などのリスクは残るため、経過観察とリハビリ計画が重要です。
麻酔管理と術中のポイント
脊髄外科では体位固定が長時間になるため、循環・換気・体温の維持と、神経症状に配慮した鎮痛が重要です。本症例でも全身状態を評価したうえで全身麻酔下に手術を行い、術中は呼吸・循環動態の変化に注意しながら管理しました。
安全に最大限配慮しながら麻酔管理を行いましたが、どのような麻酔にも一定のリスクは伴います。
術後の経過と今後の注意点
▲術後4日目の様子(自力歩行が可能に)
術後は入院下で疼痛管理と排尿状態のモニタリングを継続し、尿道カテーテルを抜去した後も排尿が成立しているかを確認しました。また入院中にケージ内で起立を試みる様子がみられ、神経機能の回復兆候を評価しながら管理しました。今後は創部管理と運動制限を行い、状態に応じて段階的にリハビリを進めます。
ご家庭で注意してほしいポイント
・退院後しばらくはケージレストを基本とし、走る・跳ぶ・階段は避ける
・滑りやすい床はマット等で対策し、転倒や急旋回を防ぐ
・排尿・排便の回数や姿勢を観察し、出にくい・失禁が続く場合は早めに相談する
・創部を舐めないようにし、赤み・腫れ・滲出があれば受診する
・内服や通院の指示は自己判断で中断せず、体調変化があれば連絡する
・リハビリは主治医の許可範囲で行い、運動量を急に増やさない
▲術後19日目の様子
同じ症状の症例を診る獣医療関係者へのメッセージ
非歩行性の後肢麻痺では、神経学的グレード評価(とくに深部痛覚)と画像診断の早期実施が、その後の治療選択に直結します。圧迫性病変が疑われる場合、減圧手術の適応やタイミング、周術期の排尿管理まで含めて紹介先と情報共有しておくと、術後のケアが円滑になります。
FAQ(よくある質問)
Q1. 椎間板ヘルニアは内科治療だけで治りますか?
A. 軽症例では安静と鎮痛で改善することもありますが、歩行不能や進行例では手術が検討されます。最適な選択は神経学的グレードと画像所見で変わります。
Q2. 退院後に特に注意すべきサインはありますか?
A. 痛みの再燃、後肢のふらつきの悪化、排尿困難や持続的な失禁が続く場合は早めに受診してください。発熱や元気消失も受診の目安になります。
Q3. いつ頃から散歩や運動を再開できますか?
A. 一般的には創部の治癒と神経機能の回復に合わせて段階的に運動量を増やします。自己判断での運動再開は再発や転倒につながるため避けてください。
※通院回数や必要なお薬は、状態や術後経過によって変わります。
※本記事の内容は、当院で実際に診療した1例をもとにした一般的な説明です。
診断や治療の方針は、犬や猫それぞれの状態によって異なります。