小型犬の前腕(橈骨・尺骨)骨折は、外傷をきっかけに前肢を挙げてしまう、触ると強く痛がるといった所見で気づかれることがあります。本症例では左前腕の橈尺骨骨折に対し、レントゲン検査と術前検査で全身状態を評価したうえで、ロッキングプレートによる内固定を行いました。骨折は成長期の犬で変形治癒につながることもあるため、同様の症状があれば猫も含め早めに動物病院での評価をご検討ください。
症例の概要
• 動物種:犬(ポメラニアン)
• 年齢:0歳4ヶ月齢
• 性別:オス
• 体重:1.86kg
• 主訴:左前肢の骨折(手術目的で入院)
• 検査:レントゲン検査、血液スクリーニング検査、血液凝固検査
• 診断:左前腕橈尺骨骨折
• 術式:骨折整復術(ロッキングプレートによる内固定)
• 担当獣医師名:是枝 哲彰(整形外科部門)
来院時の様子と検査・診断の流れ
本症例は、飼い主さまのお膝から転落し骨折してしまったとの主訴で当施設の夜間救急で来院され、左前腕橈尺骨骨折と診断されました。翌日、主治医を受診され手術不能と言うことで当施設へ再来院され施術しました。前腕骨折では疼痛と腫脹により負重ができず、過度に動かすと骨片の転位が進む可能性があります。レントゲン検査で骨折線の位置、転位、成長板への影響を確認し、必要に応じて胸部画像や血液検査で麻酔前評価を行います。本症例では血液スクリーニング検査と凝固検査も実施し、周術期のリスクを整理しました。鑑別としては、関節脱臼、前腕の捻挫や軟部組織損傷などが挙げられます。

手術内容の説明
骨折の翌日に外科的整復を行いました。骨折整復術の目的は、骨片を整復して安定化し、疼痛を軽減しながら適切な骨癒合へ導くことです。本患者では左前腕橈尺骨骨折に対し、ロッキングプレートで内固定を行いました。期待できることは早期の安定化と機能回復です。一方で、感染、インプラントのゆるみや破損、癒合遅延などのリスクが残るため、術後の安静と定期的な画像評価が重要です。

▲レントゲン画像(左:術前、右:術後)
麻酔管理と術中のポイント
体重2kg未満の小型犬では体温低下や循環変動が起こりやすいため、保温と循環管理を軸にモニタリングを行います。本患者では動脈カテーテルで血圧を評価し、必要に応じて循環作動薬を用いて循環を維持しました。また、術後疼痛の軽減を目的にブロック麻酔(局所麻酔)を併用しました。
安全に最大限配慮しながら麻酔管理を行いましたが、どのような麻酔にも一定のリスクは伴います。
当施設では、麻酔専任獣医師が複数名在職しており、麻酔科が麻酔や疼痛管理を行なっています。
術後の経過と今後の注意点
術後は創部の確認と急性期の炎症を抑えるために冷罨法(アイシング)を行い、食欲やバイタルを観察しながら入院管理しました。手術翌日より着地が認められ、術後3日目には良好な着地、負重を示し、術後3日目に退院しました。その後は再診で創部のチェックと抜糸を行っています。今後も骨癒合とインプラントの状態を確認しつつ、運動制限を段階的に調整します。

ご家庭で注意してほしいポイント
- 走る・跳ぶ・階段などの負荷を避け、安静を最優先にする
- 室内の滑り止め対策を行い、転倒や急な方向転換を防ぐ
- 創部を舐めないようにし、赤み・腫れ・滲出があれば受診する
- 急に痛がる、肢を着けないなどの悪化があれば早めに相談する
- 内服薬がある場合は指示どおりに投与し、自己判断で中断しない
- 再診(レントゲン再検など)の予定を守る
FAQ(よくある質問)
Q1. 前腕の骨折はギプスだけで治せますか?
A. 骨折の部位や転位の程度によっては外固定で管理できる場合もあります。小型犬の橈尺骨骨折では不安定になりやすく、状況により手術が検討されます。
Q2. 退院後はいつから散歩できますか?
A. 一般的には骨癒合の進み具合に合わせて短時間のリード散歩から再開します。開始時期と運動量は再診で調整します。
Q3. 受診を急ぐべきサインはありますか?
A. 痛みの急な悪化、腫れの増加、創部の出血や滲出は受診の目安です。呼吸が苦しそう、ぐったりしているなど全身状態の変化も見逃さないでください。
※本記事の内容は、当院で実際に診療した1例をもとにした一般的な説明です。診断や治療の方針は、犬や猫それぞれの状態によって異なります。