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環軸亜脱臼や側弯症を既往とする犬に対してロボット支援下避妊手術を実施した1例

避妊手術は日常的に行われる外科処置ですが、併存疾患や体格に応じて術式選択や麻酔管理を慎重に検討することがあります。本症例では小型の犬で、環軸亜脱臼や側弯症があり、術前から体位や頚部の取り扱いに注意が必要と判断されていました。術前検査で全身状態を確認したうえで、ロボット支援下卵巣子宮摘出術を実施し、術後は入院下で呼吸や疼痛、排尿状態を観察しました。犬だけでなく猫でも、基礎疾患のある患者では手術前の全身評価が重要です。

症例の概要

• 動物種:犬(ミニチュア・ダックスフンド)
• 年齢:0歳11ヶ月齢
• 性別:メス
• 体重:2.62kg
• 主訴:避妊手術希望
• 実施検査:血液スクリーニング検査、血液凝固検査、腹部超音波検査、総胆汁酸検査
• 診断名:避妊手術適応の評価を要する患者(併存疾患:環軸亜脱臼、側弯症)
• 実施術式:ロボット支援下卵巣子宮摘出術
• 担当獣医師名:金井 詠一(軟部外科部門)

来院時の様子と検査・診断の流れ

本患者は既往として環軸亜脱臼や側弯症があり、術前診察では覚醒時にはある程度の頚部制御が可能と考えられた一方、鎮静や麻酔下では頚部周囲筋の弛緩により脊髄損傷リスクが高まる可能性が指摘されていました。術前検査として血液検査、凝固系、総胆汁酸検査、腹部超音波検査を行い、腹部臓器に明らかな大きな異常がないことを確認したうえで、手術適応を判断しました。
一般的に避妊手術前には、麻酔リスクや併存疾患の有無を評価した上で術式を選択します。本症例では低体重であることに加え、頚部や体幹の取り扱いに配慮が必要であったため、周術期管理を含めた慎重な計画が立てられました。

手術内容の説明

本症例ではロボット支援下避妊手術として、臍下部のカメラポートと操作用ポートを設置し、ロボットアームを用いて左右の卵巣動静脈および卵巣堤索を処理しました。その後、卵巣子宮を腹腔外へ誘導し、子宮頚管を結紮して切断しています。
期待できることは、卵巣子宮の摘出による避妊処置の完了に加え、腹腔内操作を比較的小さな創で進められる点です。一方で、どの術式でも出血、感染、創部トラブル、麻酔関連合併症のリスクは残るため、術後の観察が重要です。

▲見学可能な手術室(飼い主さま提供)

麻酔管理と術中のポイント

本患者では、環軸亜脱臼と側弯症があるため、麻酔導入時や体位変換時の頚部・脊椎への負荷をできるだけ避けることが重要でした。術中は全身麻酔下で、循環管理や疼痛管理に加え、尿道カテーテルを留置して排尿状態も確認しながら管理しました。
安全に最大限配慮しながら麻酔管理を行いましたが、どのような麻酔にも一定のリスクは伴います。

▲手術中の様子

術後の経過と今後の注意点

術後は入院下で呼吸、体温、疼痛、尿量を観察し、翌日に退院しています。退院後の再診では術創は良好で抜糸が行われ、術後2〜3日は漿液の排出がみられたものの、大きな創部トラブルは記録されていません。今後は避妊手術そのものの経過に加え、もともとの整形・脳神経学的課題に対する継続的なフォローも行われています。

ご家庭で注意してほしいポイント

  • 術後しばらくは安静を基本とし、急な方向転換や転倒に注意する
  • 創部の赤み、腫れ、滲出、出血があれば早めに受診する
  • 食欲低下、元気消失、嘔吐が続く場合は相談する
  • 頚部や背中に無理な力がかからないよう、抱き上げ方に配慮する
  • 指示された再診日や抜糸予定を守る

▲術後、ご自宅での様子。術後服を着ている以外は何事もなかったように過ごしていたとのこと(飼い主さま撮影)

同じ症状の症例を診る獣医療関係者へのメッセージ

避妊手術自体は定型的な処置であっても、頚椎不安定性や体幹変形を併存する患者では、術式選択だけでなく体位、導入、覚醒時管理を含めた周術期設計が重要です。術前に麻酔リスクと取扱い上の注意点を明確に共有しておくことで、比較的低侵襲な手技の利点を安全性と両立しやすくなります。

FAQ(よくある質問)

Q1. ロボット支援下避妊手術は通常の避妊手術と何が違いますか?
A. 一般的には、小さなポートから腹腔内操作を行う点が特徴です。適応は体格や基礎疾患、施設体制で判断されます。

Q2. 基礎疾患があっても避妊手術はできますか?
A. できますが、併存疾患の内容によって麻酔や体位管理の工夫が必要です。事前の全身評価が重要です。

Q3. 退院後に気をつけることはありますか?
A. 創部管理と安静に加え、本症例のように頚部や脊椎の既往がある場合は日常動作にも配慮が必要です。通院回数や必要なお薬は、状態や術後経過によって変わります。

※本記事の内容は、当院で実際に診療した1例をもとにした一般的な説明です。診断や治療の方針は、犬や猫それぞれの状態によって異なります。

©Hiroshi Kawakami